【労災:介護福祉士が、家政婦兼訪問介護ヘルパーとして、要介護者宅へ7日間住込みで従事したのち急死した事例】

遺族補償給付等不支給処分取消請求事件

東京地方裁判所 令和4年9月29日判決

(裁判所HP、裁判例検索)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/529/091529_hanrei.pdf

1 ポイントは何か?

⑴ 家事使用人に労働基準法、及び労災災害補償保険法は適用されないという労働基準法116条は、憲法違反か。

⑵ 労働基準監督署長の処分の取消訴訟に、被告署長が、別の不支給処分理由を付加して主張することはできるか。

⑶ 短期発病ケースにおける疾病及び死亡の業務起因性

2 何があったか?

⑴ Bは、介護福祉士としての資格を有していた。

⑵ A社は、昭和54年設立以降、家政婦等のあっせん業務、平成12年の介護保険施行後は、介護保険事業者としての業務も合わせて行うようになった。

⑶ Bは、A社に、平成25年8月18日、家政婦(求職者)としての登録を行い、同月20日、A社と、Bの業務内容を非常勤訪問介護ヘルパーとする労働契約を締結した。しかし、特別加入による労災保険の適用をうけていなかった。

(特別加入)

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/josei/hourei/20000401-64.htm

⑷ Cは、自宅で寝たきりで、要介護状態区分5(最重度)の認定を受けていた。Cの息子は、A社から住込み勤務が可能な登録家政婦の紹介を受けていた。Bは、C宅の住込み家政婦の休暇のために、A社から紹介され、Cの息子と労働契約を締結し、1週間、C宅に住込み、家事及び介護業務を行うことになった。

⑸ Bは、その業務を終えた日の午後3時ころ、府中市の低温サウナに入り、そこで倒れ、多摩総合医療センターに救急搬送されたが、心肺停止の状態であり、急性心筋梗塞又は心停止(心臓性突然死を含む)で死亡した。

⑹ Xは、Bの夫であり、平成29年5月25日、渋谷労働基準監督署長Sに対し、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の各申請をした。

⑺ Sは、平成30年1月16日、家事使用人は労働基準法116条により、同法及び労災保険法も適用されない(同法12条の8第2項)として、各不支給処分をし、通知した。

(労働基準法)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049

(労働者災害補償保険法)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000050_20220617_504AC0000000068

⑻ 本件各処分に対するXの審査請求は東京都労働災害補償保険審査官によって棄却され、それに対する再審査請求も労働保険審査会によって棄却された。

⑼ Xは、Sを被告として、本件各処分の取消を求めて本訴訟を提起し、労働基準法116条は憲法27条2項及び14条違反である旨主張した。

(憲法)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION

⑽ Sは、本件訴訟において、本件疾病の発症及び死亡は業務起因性がないという主張を付加した。

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ 裁判所は、Bが、Cの息子と契約しただけの単なる家事使用人ではなく、出張介護サービスの業務についてはY社の従業員でもあることから、労働基準法116条は適用されないとした。これにより、本件には労働災害補償保険法が適用されることになるので、労働基準法116条が憲法違反かどうかという問題点は回避された。

⑵ Sが、本件訴訟に、別の不支給処分理由を付加して主張することは、訴訟物の範囲内で存在した一切の事実上、法律上の主張をなしうるので(最高裁第3小法廷昭和53年9月19日判決、裁判集民亊125号69頁)、可能であるとした。

⑶ 疾病及び死亡の業務起因性については、厚生労働省の判断基準を一定程度参考にすべきであるとし、本件では業務起因性がないとして、Xの請求を却下した。

「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の 認定基準について」(基発第1063号平成13年12月12日・改正基発0507第3号平成22年5月7日・改正基発0821号第3号令和2年8月21日)

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf

「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(基発第0914第1号令和3年 9月1 4日)

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832042.pdf

4 コメント

本件疾病と死亡は、短期間の加重業務として、業務起因性が肯定され、労災認定される余地はあったと思います。

労働基準法116条の家事使用人の憲法違反の問題提起は、面白い論点であると思います。家事使用人を、労働者から除外していいのでしょうか。

外国人労働者の家事使用人の問題もこれから出てきます。

https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyukan_nyukan83.html

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