1 ポイントは何か?
人事院の行政措置要求判定制度
戸籍上男性の性同一性障害者
女性職員と同等の扱い
女性トイレの自由使用
2 何があったか?
経済産業省は、戸籍上男性の性同一性障害者である職員Aに対し、服務階とその上下階以外の階の女性トイレの使用を許していた。
同職員が人事院に女性トイレを自由に使用させえることと、女性職員と同等の扱いを求める行政措置の判定の要求をした。
人事院はいずれの要求も認められないとの判定をした。
Aが国(代表者法務大臣)を被告として裁判所に人事院判定の取消しを求める訴えを提起した。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 原々審 東京地方裁判所
Aの一部勝訴。
女性トイレを自由に使用することを認めない人事院判定を取消した。その余の請求は棄却した。
⑵ 原判決 東京高等裁判所
Aの敗訴。
原々判決の人事院判定取消部分を破棄し請求を棄却した。その余は控訴棄却。
「経済産業省において、本件処遇を実施し、それを維持していたことは、上告人を 含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を果たすための対応であったというべきであるから、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえず、違法であるということはできない。」
⑶ 最高裁判所
Aの一部勝訴。
女性トイレの自由使用についての判定取消請求を認めた。他の上告は棄却した。
「国家公務員法86条の規定による行政措置の要求に対する人事院の判定においては、広範にわたる職員の勤務条件について、一般国民及び関係者の公平並びに 職員の能率の発揮及び増進という見地から、人事行政や職員の勤務等の実情に即した専門的な判断が求められるのであり(同法71条、87条)、その判断は人事院の裁量に委ねられているものと解される。したがって、上記判定は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に違法となると解するのが相当である。」
「遅くとも本件判定時においては、上告人が本件庁舎内の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、上告人に対し、本件処遇による上記のような不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきである。そうすると、本件判定部分に係る人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。」
したがって、女性用トイレの一部使用制限の取消しを認めない人事院判定は、「裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。」
裁判官宇賀克也、同長嶺安政、同渡惠理子、同林道晴、同今崎幸彦の各補足意見がある。
令和3(行ヒ)285
行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件
令和5年7月11日最高裁判所第三小法廷判決(原判決一部破棄控訴棄却、一部上告棄却)
原審 東京高等裁判所
(裁判所HP裁判例検索)