【介護給付費:眼球しか動かせない重度障碍者について、24時間吸痰体制を確立したとされる事件】  

1 ポイントは何か?

  本件の原告は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で、同居の妻にも適応障害等があり、松戸市に対し、24時間吸痰体制の確立を求めて「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「障害者総合支援法」という。)に基づく重度訪問介護の支給量の変更を求めて介護給付費の支給決定の変更の申請(以下「本件変更申請」という。)をしたが、松戸市は、同市審査会の意見も踏まえてこれを却下した(以下、「本件変更申請却下決定」という。)。しかし、裁判所はその決定を覆した。

2 何があったか?

原告は、ALSの進行により、令和元年秋頃から立位保持が困難となっており、令和3年秋頃からは寝たきりの状態にあって、現在は、眼球以外の部位を自由に動かすことができない状態である同居の妻には適応障害等がある。

原告は、令和4年5月30日付けで、障害者総合支援法24条1項に基づき、重度訪問介護の支給量を1か月581.5時間から1か月744時間(24時間×31日)に変更決定することを求めて本件変更申請をした。

松戸市は、同市審査会の審査も踏まえて、令和4年8月3日付けで、原告に対して、本件変更申請却下決定をした。

原告は、松戸市を被告として、本件変更申請却下決定の取消し、及び、本件変更申請に基づく決定の義務付けを求めたほか、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を求めた。

本件却下決定について松戸市の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用 があり違法であるか否か、松戸市長に職務上の注意義務違反があるか中が問題となった。

3 裁判所は何を認めたか?

  原告一部勝訴。

行政事件訴訟法8条2項1号 5 ただし書(審査請求前置)に反しない。本件取消しの訴えは適法であるから、これと併合提起されている本件義務付けの訴えも適法に係属している。

原告及び妻の健康状態から、原告に対し24時間吸痰体制を確立する必要性を認めた。た。松戸市の本件偏光申請却下決定には裁量権の逸脱ないし濫用があり違法であるとし、重度訪問介護の支給量を1か月581.5時間から1か月683.5時間(744時間-吸痰を実施する他の併行給付分60.5時間)への変更決定を義務付け、同時間を超える義務付け請求を却下し、1か月581.5時間を超えて683.5時間に達するまでの部分を支給量として算定しない部分を取り消し、その余の請求を棄却した。国賠請求については、松戸市長には職務上の注意義務違反はないとした。

4 コメント

  制度が異なる給付の合計が744時間で24時間吸痰体制としたが、果たしてうまく時間が重なり合わないように調節できるのか。

判例

令和4(行ウ)48  介護給付費却下処分取消等請求事件(国賠)
令和5年10月31日  千葉地方裁判所