1 ポイントは何か?
本件は、平成17年の福知山線の脱線転覆事故の刑事事件である。JR西日本の歴代3名の社長らが起訴されたがいずれも無罪となった。
2 何があったか?
本件脱線事故は、平成17年4月25日午前9時18分、福知山線の半径304㎞で制限時速70㎞の湾曲した線路に、快速電車が時速115kmで進入したために起こり、乗客106名が死亡し、493名が負傷した。
JR西日本の歴代3名の社長らにおいて,鉄道本部長に対しATS(自動列車停止装置)を本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったか否かが争われた。
3 裁判所は何を認めたか?
裁判所は、歴代3名の社長をいずれも無罪とした。
JR西日本には、半径300km以下の曲線の線路が2,000カ所以上あり、昭和60年以降ATSの設置を順次進めていたところであり、歴代社長らには、本件事故現場に特定してATSを整備するよう指示するべき注意義務はなかった。また、当時のATSには、改良が進められてはいたが、まだ速度照査機能がなく、本件現場にATSの設置が完了していたとしても、本件脱線事故のような結果が回避できることが予測できたとも言えない。
4 コメント
本件曲線への変更工事は、東西線の開業と福知山線の乗り入れの為に行われ、平成8年12月に完成し、平成9年3月に運行が開始した。その際のダイヤ改正により大幅に本数が増加したという。そのことに、本件脱線事故の本当の原因があったのではないか。そうだとすれば、JR西日本全体として、脱線事故を回避するためにやるべきことは、過密ダイヤの解消や、運転速度の制限、運転士の運転技術教育、駅員のプラットホームでの乗客の乗降の誘導訓練など、たくさんやるべきことがあったのではないか。そうすると、それでも全体を統括していた歴代社長らの責任がないということになったかどうか。運転士だけの責任にすることはできなかったのではないか。
判例
平成27(あ)741 業務上過失致死傷被告事件
平成29年6月12日 最高裁判所第二小法廷
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