【不当利得事件:大阪市が当選無効となった市会議員に対し議員報酬の返還を求めた事件】

1 ポイントは何か?

  公職選挙法251条は、選挙犯罪で有罪が確定した者の当選を無効とする。本件は、市会議員の当選が、同条により無効となり、市から議員報酬等の不当利得返還請求訴訟が提起され、最高裁判所によって認められた事件である。

当選無効となった者から、事実上市会議員として活動したことにより大阪市が受けた利益の不当利得返還請求権を自働債権とし、議員報酬等の不当利得返還請求権を受働債権として対等額で相殺するとの意思表示による相殺の抗弁が提出されたが、認められなかった。

2 何があったか?

  被上告人は、平成31年4月7日に行われた大阪市議会議員選挙に当選し、同議員として一人会派による政務活動を行っていたが、公職選挙法221条3項1号、同条1項1号の罪(公職の候補者による買収)により懲役1年、5年間執行猶予の有罪判決を受け、令和2年2月13日に確定し、当選が無効となった。

大阪市が、被上告人に対し、議院報酬及び政務活動費の不当利得返還請求をした。

被上告人は、同訴訟において、事実上の市会議員として活動したことにより大阪市が受けた利益の不当利得返還請求権を自働債権とし、議員報酬等の不当利得返還請求権を受働債権として対等額で相殺するとの意思表示を行い、相殺の抗弁を提出した。

3 裁判所は何を認めたか?

  大阪市の勝訴。

  被上告人の相殺の抗弁は認められなかった。

  林道晴裁判官の補足意見、今崎幸彦裁判官の反対意見がある。

  いずれの立場からも、市議会で、市が議員報酬等の返還を求める基準を設けてもよいとの意見が出されている。

4 コメント

  選挙違反は悪いことであり、当選無効となれば当初から議員ではなかったことになるから、議員報酬や政務活動費を受取る根拠がないので、全額返還が原則であるが、まじめに議員活動を行っていた事実があれば、議員報酬等を全て返還せよというのもいかがなものか。少しかわいそうな気もする。

一方、選挙違反は、選挙人の責任でもある。買収されて票を売った選挙人や運動員にも当選無効となった者の不当利得返還債務の連帯責任を負わせてはどうだろう。市が、その権利を行使する気になればできるだろう。