【医師免許取消:厚生労働大臣が、常習として強制わいせつ行為を行った精神科医の医師免許を取消した事件】

1 ポイントは何か?

  医師が品位を損する行為を行った時は、厚生労働大臣が医師法に基づき、医道審議会の意見を聞き、都道府県知事による医師本人の意見聴取を求め、医師免許取消処分をすることができる。本件は、精神科医が、患者に常習的にわいせつな行為を行ったことを理由に、厚生労働大臣が医師免許取消処分をし、精神科医が裁判で争ったが、認められなかった事件である。

2 何があったか?

  精神科医Aが、女性患者Bら3名にわいせつな行為を行い、名古屋高等裁判所で、平成12年5月11日、強制わいせつ罪により懲役1年8月、執行猶予4年の判決を受けた。

厚生労働大臣が医道審議会の意見を求めたところ、医師免許取消相当との意見であった。愛知県知事による医師本人の意見聴取も行われた。厚生労働大臣が平成19年2月28日、医師法7条2項の規定に基づき、平成19年3月14日をもってAの医師免許を取り消す旨の処分をした。

  Aがこれを争い、裁判を提起した。

3 裁判所は何を認めたか?

  A敗訴。

厚生労働大臣に本件処分に裁量権の逸脱ないし濫用はない。

医道審議会医道分科会の作成した「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」と題する指針は、わいせつ行為について、「国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師は、倫理上も相応なものが求められるものであり、猥せつ行為は、医師、歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり、また、人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為である。行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、特に、診療の機会に医師、歯科医師としての立場を利用した猥せつ行為などは、国民の信頼を裏切る悪質な行為であり、重い処分とする。」と定めている。

4 コメント

  医師には高い倫理性が求められる。したがって、医道審議会の意見と厚生労働大臣の判断は妥当であると思う。

  しかし、Aは、被害者3名と示談し、贖罪寄付も行い、被害者の内2名からはAが医師を続けてほしいとの要望書も出されているので、免許を比較的短期間に回復する道を開いてもよいと考える。

判例

平成19(行ウ)19  医師免許取消処分取消請求事件

平成20年2月28日  名古屋地方裁判所