1 ポイントは何か?
大麻、覚せい剤、MDMA等の輸入は、各取締法では、輸入ゲートを抜けると同時に既遂となり、関税法、関税定率法上の禁制品であるそれらの輸入としては、税関の手を抜けるまでは未遂である。被告人は、共犯者の大麻、覚せい剤、MDMA等の輸入の受取人を探す手助けをしたが、輸入品は大麻であるとの認識しかなかったので、各取締法上は、大麻輸入のみ有罪で、覚せい剤、MDMAの輸入については無罪となった。しかし、関税法、関税定率法上の輸入禁制品輸入罪の適用については大麻のみならず,覚せい剤及びMDMAの全てについて禁制品の一部であるとして故意が認められ同輸入未遂罪が適用された。被告人には覚せい剤の使用、所持もあり、最も犯情の重い覚せい剤の所持の刑に法定加重された刑で処罰された。
2 何があったか?
被告人(23歳、前刑で執行猶予中。本件での勾留中に妻が子を出産した。)は、やくざとのトラブルがあったとき、彫り物師Aの仲介で助けられたことから、Aの弟子となって彫り物師の仕事に就いた。しかし、Aは、大麻、覚せい剤、MDMA等をスイスから輸入するとき、被告人に受取人探しを依頼し、被告人が探したB宛、小包で空輸した。同小包は、成田空港の関税を抜けたが、博多郵便局内の特別関税検査で発見された。
被告人は、大麻のみの小包と思っていた旨弁解したが、のちに概括的に認め、自分は知っていたかもしれないという感想を述べるなどした。
3 裁判所は何を認めたか?
被告人を懲役1年8月の実刑、未決150日算入、大麻等没収の判決を下した。
被告人は、共犯者の大麻、覚せい剤、MDMA等の輸入の受取人を探す手助けをしたが、大麻の認識しかなかったので、各取締法上は大麻輸入のみ有罪で、覚せい剤及びMDMAの輸入については無罪となった。被告人は、本件輸入後に、Aから白い粉末を与えられて、それは覚せい剤かもしれないと思い、そのことから、もしかしたら自分は覚せい剤やMDMAの輸入のことも知っていたかもしれないという概括的な故意を認めたり、感想を述べたりするなどの、供述の変遷があった。しかし、被告人は、大麻だけだったという供述も維持していた。裁判所は、被告人の概括的故意の自白は、思い違いに過ぎないとみて、大麻輸入の既遂罪のみ有罪とし、覚せい剤及びMDMAの輸入既遂罪は無罪とした。
関税法、関税定率法上の輸入禁制品輸入罪の適用については、禁制品である大麻、覚せい剤及びMDMAのすべてに故意が認められ、税関吏員に発見されたことで未遂罪となった。覚せい剤及びMDMAについて認識がなくても、同じ禁制品の範囲内の事実の錯誤(併存的事実の錯誤)であり、故意を阻却しないというのである。個別の取締法が適用される場合と、関税法、関税定率法で禁制品として大麻、覚せい剤及びMDMA等がまとめられていることによる故意の認定の仕方の違いであろう。
被告人には覚せい剤の使用、所持もあり、最も犯情の重い覚せい剤の所持の刑に法定加重された刑で処罰された。
4 コメント
被告人は前刑での執行猶予中の本件犯罪であるから実刑となるほかないが、輸入大麻の量が多く、悪質であった。検察官の求刑は3年であったが、妻が情状証人として法廷で今後の監督を誓ったことで、相当刑が軽くなったと考えられる。
関税法、関税定率法の適用では、禁制品として、覚せい剤及びMDMAの通関についても一括して有罪とされることには、覚せい剤及びMDMAが量刑上考慮されるであろうことから疑問が残る。
判例
平成15(わ)111 大麻取締法違反,覚せい剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反(訴因変更後の罪名 大麻取締法違反,覚せい剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反)被告
平成15年9月29日 福岡地方裁判所
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