福岡地方裁判所 令和5(わ)720 住居侵入、窃盗被告事件
令和6年9月11日 判決(無罪)
1 ポイントは何か?
統合失調症による現実と妄想の二重の見当識、責任能力
2 何があったか?
被告人は、亡母の幻覚幻聴の教唆に従って窃盗犯を繰り返し、被害者と遭遇し
た時も落ち着いた態度であった。
検察官は、心身耗弱は考えられるが、現実の行動が一貫しており責任応力はあ
るとして窃盗事件として起訴した。
3 裁判所は何を認めたか?
裁判所は、精神鑑定の結果、本件各犯行当時、統合失調症の妄想と思路障害が
あり、現実と妄想の二重の見当識があったとして、本件犯行は、現実に窃盗犯
としての認識はあるが、妄想と思路障害に支配され、心神喪失による行為であ
り責任能力が欠如していることを認め、被告人は無罪とした。
4 コメント
本件の鑑定医が「二重の見当識」という言葉で説明しようとしたものは何か。
それは窃盗の現実的認識と、統合失調症による妄想空間の認識が両立しうるが
、両社は対抗関係にあり、現実認識が強ければ妄想を制御し、妄想が強ければ
現実認識が形骸化するということであろう。そして、妄想が現実認識を形骸化
させるほどに強いと認定されれば責任能力がないという判断となる。これは、
精神障害者の行為と責任能力を理解する上で有効な観点である。
窃盗癖(クレプトマニア)には、責任能力があるというこれまでの画一的判断
を覆した意味においても画期的な裁判例となりうると思われる。