【刑事事件:殺人が統合失調症の強い影響のもとに行われ無罪となった事件】

令和6年10月22日宣告 東京高等裁判所第12刑事部判決 令和5年 第
1481号 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 


1 ポイントは何か?


精神科医Aが2度の鑑定をし、その結論が統合失調症の有意の影響なしから、
強い影響ありに変わった。


2 何があったか?


被告人は、家庭裁判所の玄関で離婚調停の相手方である妻の頸部を、折りたた
みナイフで切りつけて失血死させたとして起訴された。
被告人は統合失調症であった。しかし、検察官は、被告人に統合失調症の重度
の症状はなく、完全責任能力があると主張した。
弁護人は、被告人が本件犯行時に心神喪失状態にあり無罪と主張した。
精神鑑定医Aは、第1鑑定では統合失調症の有意の影響はなかったと判断して
いたが、裁判員裁判の事前手続において行われた第2鑑定では、統合失調症の
強い影響のもとに本件犯行に至ったと判断した。
第1鑑定と第2鑑定の結論の差は、Aが調査した対象が広げられたことによる
。検察官は、別の2名の精神科医B及びCによる鑑定を申立てたが、弁護人は
、本件との関連性、相当性がないとの意見を述べた。


3 裁判所は何を認めたか?


東京裁判所は、Aの第2鑑定に基づき、被告人を無罪とした。B及びCの鑑定
には、両医師がほとんど被告人に接していないことを理由に斥けた。
検察官が控訴したが、東京高等裁判所は、控訴棄却の判決を下した。


4 コメント


同じ精神科医の鑑定でも、どの範囲の資料を参照するかで結論が変わる場合が
あるということがわかった。