【刑事事件:女性を襲った男を刺殺した事件】

東京高等裁判所 平成4年(う)第1065号 殺人被告事件 平成5年1月
26日判決


1 ポイントは何か?


盗犯等防止法の正当防衛と相当性


2 何があったか?


被告人Aは、隣室C女が、酒に酔ったBに侵入され、刃物で脅され、助けを求
めたので、C女の部屋に行き、Bに退室するよう言ったが、刃物で向かってき
て手を切りつけられたので、刃物を奪って応戦したところ、BはAの首を上か
ら抑えつけたので、Aは刃物を振り回し、何度も刺突したところ、Bは左背部
刺創による出血で死亡した。


3 裁判所は何を認めたか?


原審は、Aが確定的殺意を有し、正当防衛には当たらないとして殺人罪で有罪
判決を下したが、東京高等裁判所は、未必の故意に留まり、正当防衛として相
当性の範囲内であるとして、盗犯等防止法の正当防衛の規定を適用し、原審判
決を破棄し無罪判決を下した。


4 コメント


盗犯等防止法の正当防衛は、刑法上の正当防衛の「やむを得ずにした行為」で
あることの主張・立証を不要としたが、生命、身体または貞操に対する現在の
危険を排除するための防衛行為として相当であること(防衛行為と認められる
こと。)の立証は必要である。確定的殺意(殺そうと思った。)ではなく未必
の殺意(殺すかもしれないと思った。)とされたことで、防衛行為の相当性の
主張・立証の程度も、ある程度緩和されるだろう。判断が難しいこともあろう