【刑事事件:産業総研の研究者が中国に営業秘密を流したとされた事件】

東京地方裁判所 令和5特(わ)1278  不正競争防止法違反
令和7年2月25日判決

1 何があったか?

検察官は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の上級主任研究員
Aが、不正の利益を得る目的で、自己のメールアドレスから中国B有限公司(B
社)のCに、産総研の営業秘密であるへプタフルオロイソブチロニトリル(化
学式C4F7N、略してC4)の合成技術情報 (本件ノウハウ)が記載されたファ
イルデータを、Yが使用す るメールアドレスからB有限公司のCが使用するメ
ールアドレスに電子メールに添付して送信し、 もって営業秘密を開示したもの
であるとして、不正競争防止法違反で起訴し、懲役2年6月及び罰金200万
円を求刑した。
弁護人は、Aの無罪を主張した。
争点は、①本件メールの送信者はAかDか、②本件ノウハウの産総研帰属、③営
業秘密としての非公知性、④Yの認識、⑤不正の利益を得る目的等である。

2 裁判所は何を認めたか?

裁判所はAを懲役2年6月(4年間執行猶予)、罰金200万円に処した。
裁判所は、本件ノウハウは、産総研職員であるA及びDが共同で作成し、産総研
によtって秘密管理していたものであり、一般に、営業秘密に当たる研究成果
物等は産総研との雇用契約に基づき適用される成果物規程により原始的に産総
研に帰属するから、当該研究成果物等の発生を職務上認識していればその職員
は「営業秘密を保有者から示された者」に当たるのであって、産総研職員等が
秘密性の明認を怠ったとしても秘密管理性に影響を及ぼすことはないとする。
なお、本件ノウハウに添付されたNMRスペクトル図は、平成30年1月頃のB
社の研究状況紹介資料や報告書等に掲載されたものの流用であったとしても、
同図は本件ノウハウの一部にすぎないから、本件ノウハウ自体の非公知性は否
定されないとした。

3コメント

B社と産総研のほぼ同時に進行していた研究が、両者の協力関係の下に行われ
ていたとは言えないのか。Aが狙った不正の利益とは何だったのか。大川原化
工機噴霧乾燥機無罪事件を想起して再検討する余地はないか。

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