【刑事事件:生活保護を受けながら第三者から金を貢がせた事件】

福岡高等裁判所 令和7(う)32  強盗致死、有印私文書偽造・同行使、詐欺、電磁的公正証書原本不実記録・同供用
令和7年7月9日判決  094285_hanrei.pdf

1 ポイントは何か?

共犯者同士の関係についての事実誤認の有無。

2 何があったか?

 ➀Aは、共犯者Bから送金された40万円をBからの預り金であるとしてA及び同居家族の収入を過少に申告し、生活扶助費191,966円を詐取した(詐欺)。

 ➁Aは長女Cと共謀し、商品名・金額を改変した領収書を保護課職員に提出した(有印私文書偽造・同行使)。

 ➂上記同種行為。

④AはBと共謀しBの内容虚偽の住民異動届をした(電磁的公正証書原本不実記録・同供用)。なお、Bはこれにより保険証を取得し、Aらと消費者金融を回って金を借りようとしたが失敗した。

➄AはBとBの姉Dから預金通帳等の強盗を共謀し、BがDに催涙スプレーを噴射し、頸部を圧迫して死亡させ、預金通帳、印鑑、計4輪乗用自動車1台を強取したが、AにはDを殺害する意思はなかった(強盗致傷)。

⑥Aが、Bと共謀し、D名義の預金払戻請求書を偽造して738,000円の払戻を受けた(有印私文書偽造・同行使)。

⑦上記同種行為。払戻額290,000円。

検察官は、➀ないし⑦の行為につき、それぞれのカッコ内の罪により起訴し、懲役27年を求刑した。

Aは、Bが北朝鮮の工作員らともつながっており、AやAの家族を脅して、従わせており、➀については、Bから金を預かっただけと主張し、➄については共謀を否認し、⑥及び⑦についてはBから脅されていたと主張した。 

3 裁判所は何を認めたか?

 地方裁判所は、Aを➀ないし⑦についてすべて有罪とし、懲役20年の刑を科し、高等裁判所はAの控訴を棄却した。

Bは売春等で生計を立てており、Aは、Bから常時金を貢がせるような優位な関係にあったと認定した。Aやその同居人らがBから脅されていたとの主張は荒唐無稽であるとした。

4 コメント

 ④の住民異動届を手段とする保険証の取得も詐取として処罰の対象になるのではないか。

➄の強盗致傷ではDがBから殺されなければならなかったのはなぜなのか。AがBに対して優位の立場にあるとすれば、BのみにDの殺意があるだけでなくAにも未必の殺意の共謀が認定しえたのではないか。

一方、BがAやその同居人等を支配していた等のAの弁解が荒唐無稽であるとなぜ言えるのか。AとBは相互に支配し合っていたとは考えられないか。本件の捜査や公判はAとBの相互の関係を十分に解明していないように思う。

社会の片隅で小さな破壊的カルトが生まれ、内部では相互に支配し合い、外部では無関係の第三者を傷つけるとすれば、第三者がそれに対抗し自らの命を守るためには、身近な地域のつながりが大切だ。身近であるからこそ上下関係を排除し、民主主義的で対等な人間関係を構築していくことが、このような凶悪な犯罪の防波堤となりうる。

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