名古屋地方裁判所 平成30(ワ)1654 損害賠償等請求事件 令和5年5月23日判決
1 ポイントは何か?
企業犯罪についての役員らの第三者責任、従業員らの不法行為責任。
2 何があったか?
A社がX1~23ら顧客に物品(磁気治療器)を売り(後にリース債権販売に改められた)、
それを第三者にレンタルさせる契約を締結したが、顧客らは代金を払ったのにレンタル料
を受け取ることができず損害を被った。A社は、預託法違反、特商法違反により消費者庁
から勧誘取引停止等の処分を受け、粉飾決算等もあり、自己破産した。Y1~20は、A社
の役員、従業員、代理店等である。顧客らが集団訴訟によりY1~20に対し損害賠償請求
をした。Y7(監査役)、Y10(お客様相談室長)、Y19(財務係長)は自己破産・免責決
許可定を受けた。
3 裁判所は何を認めたか?
A社の契約勧誘行為は、平成20年9月以降は、破綻する状況にあることを隠し、説明義
務に違反して資金を提供させる行為であるから不法行為に当たるとし、役員等でA社が実
質的に破綻することを認識していた者には、認識した以降の職務違反の重大過失、不法行
為の過失や共同不法行為を認めた。破産免責許可を受けた者等には免責許可を阻却する悪
意まではないとした。
その結果、Y1(代表取締役)、Y6(取締役)、Y15(エリアマネージャー)、Y16(答
弁書を提出しない)等に対しては、それぞれの被請求額全額の支払いを命じた。Y2(監
査役)、Y4(海外統括責任者)、Y8(監査役)、Y18(店舗会社)に対しては、それぞ
れの被請求額の一部の支払を命じた。その他の請求は棄却された。
4 コメント
A社代表取締役会長に対すものと思われる詐欺被告事件の東京地方裁判所令和4年1月
28日判決(懲役8年)hanrei-pdf-91186.pdfがある。
前田信二郎「会社犯罪の研究」(有斐閣昭和43年)は、財産犯の歴史を振り返り、昭和
8年の帝人事件の全員無罪判決を参考に、会社犯罪の刑法的規制については、学説にも裁
判にも法の目盛りを狂わせるものがあるとされる。民事的規制に関しても、本件を見ると
、法の目盛りは正確であるかについて若干疑問を感じるものである。被告とされた関係者
20名中12名の責任が否定されているのは、その分、被害者である顧客の側に責任転嫁
がされたと同じことになると思う。現在では公益通報者保護法もあるのだから、詐欺的な
商売をする企業の従業員らに対しても厳しい責任を負わせる根拠がある。

