【労災:職場の「カースト」的パワハラ・いじめ事件】

千葉地裁平成30年(ワ)第1394号損害賠償請求事件

弁論終結令和3年9月7日、判決令和4年3月29日

(最高裁HP、裁判例検索より)

1 ポイントは何か?

  • 出演者雇用契約。
  • 職場の「カースト」的パワハラ・いじめがあったか。
  • 安全配慮義務違反、不法行為、使用者責任の有無。

2 何があったか?

Xは、Yと出演者雇用契約を締結したが、Yのショウに出演中に、握手した男性客に、指を強く握られて引っ張られ、手の甲側にそり返えされる暴行被害を受け、右指捻挫(軽度)の障害を受けた(本件出来事)。

Xは傷害罪で告訴しようとしたが、Yのセキュリティー部も、その男性客を見つけることはできなかった。

Yは、Xの求めに応じて、労災認定申請に協力した。

Xは、本件出来事に関連して、Yのショウを統括する立場のAないしCにより一連のパワハラを受けてうつ病を発症し憎悪した上に、ショウの出演者であるDないしIらから、出演者間の「カースト」に基づいた職場における常習的ないじめの一環としてのいじめを受けて、激しい精神的苦痛を受けた(判決文のまま)として、Yに対し、安全配慮義務違反、不法行為、使用者責任などに基づく損害賠償請求事件を提起し、損害賠償金330万円(内、弁護士費用分30万円)及び訴状送達の翌日から支払済まで年5分(平成29年法律第44号による民法一部改正前の規定による)の遅延損害金の支払いを求めた。

3 裁判所は何を認めたか?

  • Xが、一部勝訴した。
  • 慰謝料80万円、弁護士費用8万円、遅延損害金が認められた。
  • 訴訟費用については、Xの負担分が15分の11であった。

裁判所は、AのXに対する「君は心が弱い」との趣旨の発言は認めたが、社会通念上相当性を欠くとまでは言えないとした。その他のAないしIの発言も、一部は認めたが、そのほとんどは、社会通念上相当性を欠くとまでは言えないとした。

しかし、Yは、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を負い、職場の人間関係に配慮し、職場環境を調整する義務があるのに、それに違反し、放置したことで、損害賠償責任を負うとした。

なお、Xの仕事内容には配慮しており、仕事を調節する義務の違反はないとした。

4 コメント

Xは、訴えを提起する前に、労働審判の申立はしなかったようである。

訴えの提起から弁論終結まで3年ないしそれ以上かかっており、弁論終結から判決まで7か月近くかかっている。その間に、双方の主張のやり取りや証拠調べだけではなく、何度か和解が試みられた可能性がある。

職場の「カースト」に基づく常習的ないじめとは、その場にいる人でないとわからないかもしれない。

事実認定も、法律の適用も簡単ではなかったと思う。

出演者雇用契約や、「カースト」と表現されたショウを支える職場の人間関係など、また、AないしIらの、誰がどのような発言をしたか、それらが社会通念上相当性を欠くか否かの判断に、相当な時間を要したであろう。一部は、録音がとられて、具体的な発言内容が残っていたようである。ただ、信義に反する方法での録音は、証拠として認められない場合もある。

Yの安全配慮義務違反の具体的内容が、Xの仕事の内容の調節の違反にあったのか、それとも、Xが属する職場の人間関係の調節の違反にあったのかの検討、Xのうつ病等の発症とYの安全配慮義務違反との相当因果関係の有無の認定などにも、相当な時間を要したのであろう。

Yは、Xの仕事の内容面で出来る限り調節をしたようであり、それが慰謝料減額の主な要因となったと思われる。