【労働事件:定年退職後再雇用後の有期労働契約に基づく賃金が定年前の半額以下になった事件】

1 ポイントは何か?

  昭和四十六年法律第六十八号、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は、定年の引上げや高齢者の再雇用制度の導入を通じて経済や社会の発展に資することを目的にしている。高齢者の再雇用制度の導入は、この目的にかなったものでなければならない。本件は、再雇用制度を導入した会社の労働者が定年退職後、再雇用により有期労働契約の嘱託職員となったが、給料等は定年退職前の半分以下となったので、会社に対し定年退職前の基準による支給を求めたものである。名古屋高等裁判所は、労使交渉が反映されたものではなく労働契約法20条の不合理にあたるとして定年退職時の給与等の6割までの支給額の回復を認めたが、最高裁判所は、これを破棄し差し戻した。

2 何があったか?

  A及びBは、自動車運転教習所のC社に主任指導員として勤務していたが、定年退職した。C社は、高齢者再雇用法による再雇用制度を設けており、A及びBはそれに応募して再雇用された。再雇用後は嘱託職員として労働契約は1年更新で65歳まで延長が可能であった。しかし、給与及び賞与は、退職前の半分以下であった。

  A及びBは、C社に対し、退職前の就業規則に基づく給与及び賞与を請求した。

3 裁判所は何を認めたか?

  名古屋高等裁判所の判決では労働者側が一部勝訴した。同裁判所は、C社に対し、定年退職時の給与及び賞与の60パーセントから再雇用後の支給額を差し引いた額を支払うよう命じた。「(再雇用後の給与等は)労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の 観点からも看過し難い・・・(60%を下回る部分は)労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。」

  最高裁判所は、同判決の労働者側勝訴部分を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻した。 

「労働契約法20条は、・・・有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、(無期労働契約との)間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るもの・・・の判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである(最高裁令和元年(受)第1190号、 第1191号同2年10月13日第三小法廷判決・民集74巻7号1901頁参 照)。」とし、原判決には、審理不尽、判決に影響を及ぼす法令解釈の違法があるとした。

4 コメント

  本件後に平成五年法律第七十六号、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律が制定され、(賃金)第十条「事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。」との努力規定が設けられた。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 | e-Gov法令検索

判例

令和4(受)1293  地位確認等請求事件

令和5年7月20日  最高裁判所第一小法廷  判決  その他  名古屋高等裁判所

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