【相続関連:立木売買の代理権授与の意思表示ないし黙示の意思表示がなかったと認定した事例】

昭和26(オ)256号 所有権確認妨害排除請求
昭和28年9月11日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却

原審  広島高等裁判所

(裁判所HP・裁判例検索)

073652_hanrei.pdf (courts.go.jp)

1 ポイントは何か?

⑴ 立木売買の代理権授与の意思表示の有無。

⑵ 代理権の成立に関わる直接事実(ないし主要事実)の有無を、間接事実(ないし補助事実)を認定し、それによって推定してよいか。

⑶ 間接事実(ないし補助事実)は、裁判所に顕著な事実であれば、当事者が主張・立証しなくても、裁判所の判断で認定し、裁判の資料としてよいか。

⑷ 本人と代理人の間に、多くの訴訟が係属しているという事実は、裁判所に顕著な事実か。

2 何があったか?

(最高裁の判決文から推定。)

⑴ Dが、Aを代理して、A所有の立木を農業会Fに売却した。

⑵ Fは、Cに同立木を譲渡した。Cが死去し、Cには相続人B1およびB2のうち、B1が、同立木の所有権を相続した。

⑶ Aは、B1が同立木のある土地へ立入ることや伐採することを拒んだ。

⑷ B1は、Aに対し、同立木の所有権確認及び妨害排除の訴えを提起した。

⑸ 背景に、Aの先代Eの没後まもなく、DとAらとの間に、Eの遺産の管理処分権をめぐって、深刻な争いを生じ、両者間で、同じ裁判所に10数件の訴訟が起こされていたという事情があった。

3 裁判所は何を認めたか?

B1が敗訴。

(1)  裁判所は、AのDに対する代理権授与の意思表示ないし黙示の意思表示という直接事実(ないし主要事実)がないと認定した。

⑵ その認定の際、間接事実(ないし補助事実)として、AとDの間に、10数件の訴訟が起こされ、深刻な争いがあったという事実は、裁判所に顕著な事実であるとした。

4 コメント 

⑴ 裁判において重要な事実は、権利の発生、変更、消滅等に関する直接事実(ないし主要事実)である。

本件の場合、B1は、AのDに対する代理権授与の意思表示ないし黙示の意思表示があったという直接事実(ないし主要事実)を、委任状や立会った第三者の証言などで、直接証明することはできなかったようである。第1審で、Dの証言があるようだが、これも代理権授与の証明とはならなかった。

本来であれば、これだけで結論は出るはずである。

⑵ そうであれば、AD間に多数の訴訟が存在し、深刻な紛争があったという事実は、間接事実(ないし補助事実)にすぎないので、必ずしも判断する必要はなかったことになる。

しかし、裁判所が、あえて、AD間に多数の訴訟が存在したという間接事実(ないし補助事実)を取り上げたのはなぜだろうか。

Dは、EやAの財産管理に深く関わっていたようであるから、AのDに対する代理権授与が推定される、何らかの事情(別の間接事実ないし補助事実)があったのかもしれない。そこで、裁判所が、気を利かせて、Eの没後のAとDの間には、Eの遺産の管理処分権をめぐって深刻な争いがあったのだから、AのDに対する代理権授与はあり得ないという推定を働かせたということのようである。

けれども、E没後のAD関係から、それ以前のAD関係が同様であったと推定することができるのだろうか。それは、必ずしも言えないのではないか。人は、急に仲たがいすることもありえないではないので、それ以前は、AD関係も良好であった可能性もなくはない。

間接事実(ないし補助事実)であるというためには、直接事実(ないし主要事実)との関連性が必要であろう。E没後のAD間の多数の訴訟が存在する事実から、AD間に深刻な争いがあったと認定したとしても、それ以前のAD関係もそうであったと推認させるだけの関連性があると言えるのだろうか。AD間に、多数の訴訟があったという、数だけの問題であれば、裁判所に顕著な事実であるかもしれないが、AD間の訴訟の数だけではなく、それら多数の訴訟から読み取ることができるAD間の深刻な争いなるものの中身が、それ以前のAとDの関係にも及び、AからDへの、立木処分の代理権授与の意思表示などするはずがないといえるような性質のものであるとしても、そのような認定をするには、かなり細かな検討が必要であろう。そうであれば、裁判所が、直ちに判断できるようなことではないはずなので、裁判所に顕著な事実とはいえないのではないか。たとえ、同じ裁判官が担当した事件であっても、別の事件の資料とするためには、取り寄せの手続きをとっている。 

⑶ B1は、Aの追認という主張もしたが、これも認められなかった。追認の主張は、代理権授与がないという前提での主張であるから、代理権授与の主張を弱めたとも考えられる。

⑷ 委任状や売買契約書の作成は大切である。立木の売買は、立木の登記手続か、慣習上の明認方法によって、独立の不動産となって、対抗要件を取得すことができる。これからの立木の売買には、これらの手続きをとるべきである。

 ⑸ 福崎剛「山を買う」ヤマケイ新書((株)山と渓谷社2021年3月5日初版)には、山を買う楽しみと共に、山や山林売買の実際上の困難性についても記述があり、参考になる。

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