【柔道整復師の事件:資格取消し処分の執行停止を申し立てた事件】

1 ポイントは何か?

柔道整復師免許取消処分

重大な手続的瑕疵 

比例原則違反

裁量権の範囲の逸脱 

処分の効力の停止

2 なにがあったか?

  柔道整復師法 | e-Gov法令検索 

行政事件訴訟法 | e-Gov法令検索

Aは、柔道整復師であるが、詐欺罪で服役し、出所後、再び柔道整復師の資格を生かして有料老人ホームの機能訓練指導員となった。厚労省は、その1年以上経過後に聴聞手続を開始し、Aの柔道整復師の資格を取消す処分をした。

  Aは、処分取消し訴訟を提起し、それを本案とする執行停止を申し立てた。

3 裁判所は何を認めたか?

  本件は、執行停止申立に対する地方裁判所の判断です。

柔道整復師の資格を取り消す処分の停止を本件の本案である処分取消し訴訟の第1審判決のいいあたしがあるまで停止することを決定した。

⑴「重大な損害を避けるための緊急の必要」 (行政事件訴訟法25条2項)については、①処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と、②これによって申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを、損害の回復の困難の程度を考慮した上で比較衡量し、③処分の執行等による行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおこれを停止して 申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かという観点から検討すべきである。④「重大な損害」を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する(同条3項)。⑤経済的損失が発生するおそれを理由とする「緊急の必要」性については、当該経済的損失の発生につき事後の金銭賠償によってはその回復が困難又は不相当であると認められるような事情が存することが必要であるというべきである。⑥抗告訴訟が原告自身の権利救済を目的とする制度である以上、執行停止制度で救済されるべき利益も申立人(原告)自身の利益でなければならないと解すべきであって、第三者に生ずる損害は、行政事件訴訟法25条2項の「重大な損害」に該当しないというべきである。

  

⑵「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」、又は「本案について理由がないとみえるとき」は、執行停止をすることができない(同条4項)。①本案について理由がないとみえることの有無については、一般に、柔道整復師法4条各号の事由がある柔道整復師に処分をするかどうか及びどのような処分をすべきかは処分行政庁の裁量にゆだねられているとしても、処分行政庁が考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断をした場合や、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には、処分行政庁による柔道整復師法8条に基づく処分が裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法と判断される余地があり得るところ、本件についても、そのような余地の有無を判断するために、申立人の本件詐欺事件の犯行に至る経過や犯行態様、受刑後の生活状況や稼働状況等について、本案の審理を経る必要がないということはできない。②「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」の有無については、処分行政庁は、申立人が仮釈放されて柔道整復師としての業務を開始し てから約1年2か月、申立人の刑期終了から起算しても1年以上経過した平 25 成22年2月になって初めて、申立人に対し本件処分に係る手続を通知して おり、処分行政庁が公共の福祉に重大な影響を及ぼすものとして迅速に申立人の処分の手続を行ったものとは言い難い。

4 コメント

  行政処分においては比例原則が大切。

  詐欺事件で有罪となり、服役したAが、厚生労働大臣免許である柔道整復師としてやり直すためにその資格を生かして老人ホームの機能訓練指導員となった。ところが1年数か月後に柔道整復師の資格取消しの審判を受けた。それに屈することなく裁判で争い、執行停止決定をとった。立派ではないか。過去を反省しつつ、自分に負けずに歩んでほしい。

 しかし、残念ながら、本案訴訟ではA敗訴。

082013_hanrei.pdf (courts.go.jp)

平成22(行ウ)286  免許取消処分取消請求事件

平成23年7月12日  東京地方裁判所  警察関係 A敗訴。

082013_hanrei.pdf (courts.go.jp)

平成23(行コ)262  免許取消処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第286号)

平成24年1月18日  東京高等裁判所  その他 A敗訴。

裁判例検索では、最高裁判決は見当たらないが、上告されずあきらめられたか。それとも上告したが棄却となったか。

しかし、無意味な議論が展開されたわけではない。Aが裁判所で闘ったことの成果は、別の人がそれを参考にして闘うなど、どこかに残るのではないか。

判例

平成22(行ク)144  執行停止申立事件

平成22年6月1日  東京地方裁判所  警察関係