【交通事故刑事事件:信号無視が主位的訴因、自車周辺不注視が予備的訴因とされた事件】

1 ポイントは何か?

  検察官が起訴した本位的訴因に予備的訴因を追加し、第1審で予備的訴因によって有罪となった被告人のみが控訴した場合でも本位的訴因は消えず、その後の裁判の対象となるとされた事例である。

2 何があったか?

検察官が起訴状の公訴事実で、被告人の注意義務について、信号注視義務違反を訴因(以下、「本位的訴因」という。)としていたところ、自車の周辺の注視義務違反を訴因とする追加請求をし(以下、「予備的訴因」という。)、第1次第1審地方裁判所の第7回公判において右予備的訴因の請求が許可された。

3 裁判所は何を認めたか?

  第1次第1審地方裁判所は予備的訴因を認めて有罪とし、被告人のみが控訴し第1次第2審高等裁判所では破棄のうえ差戻しとなり、第2次第1審地方裁判所では本位的訴因で有罪となり、被告人が再控訴し、第2次第2審高等裁判所では控訴棄却となり、被告人が上告したが最高裁判所は上告棄却とし、被告人の有罪が確定した。

「本件の場合、本位的訴因の犯罪事実も予備的訴因の犯罪事実も同一の被害者に対する同一の交通事故に係るものであり、過失の態様についての証拠関係上本位的訴因と予備的訴因とが構成されたと認められるから、予備的訴因に沿う事実を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといつて、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防禦の対象から外れたとみる余地はない。」

4 コメント

  信号注視義務違反をと自車周辺注視義務違反は過失の態様の差に過ぎないとのこと。

判例

平成元年5月1日  最高裁判所第一小法廷  決定  棄却

原審  東京高等裁判所

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