【後遺症、後遺障害:業務上過失傷害罪】

1 ポイントは何か?

  業務上過失傷害罪で起訴された被告人が、見通しの悪い私有地から道路に出る際に一旦停止して左右の安全を確認しなかったが、私有地でも一般の道路とみなされる場合は交通整理の行われていないT字路の右角にすみきりがあるのと同様に徐行で足りるとして無罪とされた事例である。

2 何があったか?

 被告人は農耕用自動車を運転して私有地から道路に出る際右方向の見通しが悪いのに一時停止せず、右方向から来た自動二輪車運転者の左膝辺等に接触、転倒させ、側方動揺性屈曲制限荷重痛の後遺症を残す開放性骨折(左膝蓋骨大腿骨外顆)左膝外側々副靱帯損傷兼半月枝損傷の傷害を負わせた。

3 裁判所は何を認めたか?

  第1審地方裁判所及び原審仙台高等裁判所は、被告人を業務上過失傷害で有罪とした。

  最高裁判所は原判決及び第1審判決を破棄し、被告人は無罪とした。

  原審判決には、次のような理由で、判決に影響を及ぼすべき法令の違反、重大な事実誤認(刑事訴訟法4111条項1号、3号)があるとした。

  「道路交通法は、2条1号で「道路」の定義として、道路法に規定する道路等のほか、「一般交通の用に供するその他の場所」を掲げており、たとえ、私有地であっても、不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は、同法上の道路であると解すべきであるから、右部分は、同法上の道路であったと認めるべきである。  被告人が右折する際進行していたところは、前述のように、道路もしくは交差点の一部とみるべき場所であるから、被告人は、交通整理が行なわれておらず、左右の見とおしもきかない本件交差点に進入する車両の運転者として、道路交通法42条に従い「徐行」すれば足り、一時停止まですべき義務はなかつたものといわなければならない。そして、第一審で取り調べられた被告人の司法警察員および検祭官に対する各供述調書によれば、事故当時の被告人の農耕車の速度は時速約10キロメートルであつたと認められ、右速度は、道路交通法2条20号の「直ちに停止することができるような速度」と認められるから、被告人には同法42条の徐行義務違反の事実はない。」とした。 

4 コメント

  単なる私有地から道路に右折進入する場合とT字路の交差道路から直進道路に右折進入する場合の違い。

判例

昭和43(あ)1407  業務上過失傷害

昭和44年7月11日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄自判  原審 仙台高等裁判所

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