【損害賠償:新築建物の購入者が、一級建築士を代表者とする建築設計会社に対し、工事監理者として届出をしているのに、建築主兼施工者の違法な手抜き工事を放置したとして損害賠償請求した事件】

1 ポイントは何か?


  設計の依頼を受けた設計会社の代表者である一級建築士が、設計し、建築主の建築確認申請を代理し、工事監理者となる届出をし、土木事務所の建築主事から建築確認を受けた。ところが、建築主が、その一級建築士と工事監理契約をせず、Dが届けた工事監理者の変更もせず、他の工事監理者を置かずに、施行者として、別の設計図で、手抜き工事をした。その建物の購入者が、その一級建築士に対し、建築主兼施工者が工事監理者を置かず違法な手抜き工事をすることを容易にさせ放置したとして損害賠償請求をした。裁判所は、一級建築士の責任を認めた。


2 何があったか?


  A社は、その代表取締役Dが一級建築士であるが、建築主兼施工者であるE社から設計、建築確認申請の依頼を受け、DがE社の代理人として、土木事務所の建築主事から建築確認書を取得した。その建築確認申請の際、Dは、A社と正式に工事監理契約を締結していなかったが、Dを工事監理者として届けていた。E社は、建築確認を受けた設計とは別の手抜き工事の設計で、工事監理者も置かずに施工した。Xは、E社から本件建物を購入したが、手抜き工事に気が付き、E社との契約を解除し損害賠償請求するとともに、A社にも損害賠償請求をした。
 A社は、建築確認書の取得後の手抜き施工はE社のみの責任であると主張した。


3 裁判所は何を認めたか?


  Xが勝訴した。
裁判所は、Dが、E社の違法行為を容易にし、放置したとして、Dの過誤を認め、Dが代表者であるA社の損害賠償責任を認めた。
  建築士は、その業務を行うに当たり、新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法及び同法の各規定による規制の潜脱を容易にする行為等、その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務を負う。


4 コメント


  本件は、一級建築士の専門家責任に関する最高裁判所判例である。
土木事務所の建築主事の職務上の注意義務違反による国家賠償責任の有無に関する同裁判所平成22年(受)第2101号損害賠償請求事件の平成25年3月26日判決でも引用された。
  一般不法行為の故意過失や違法性の判断に建築士法の目的を当てはめて、建築士の専門家責任の判断基準や考え方を明らかにした。

判例

平成12(受)1711損害賠償請求事件
平成15年11月14日 最高裁判所第二小法廷 判決
原審 大阪高等裁判所