最高裁判所第三小法廷 令和6(行ヒ)94 行政文書不開示処分取消等請求事件
令和7年6月6日判決(原審、東京高等裁判所)
1 ポイントは何か?
機能性表示食品検証事業報告書の開示は消費者庁の事務を困難にするか。
2 何があったか?
消費者庁は「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」を定め、消費
者庁長官は食品関連事業者に対し指示や命令(食品表示法6条1項、5項)を
行い、消費者庁は機能性表示食品の届出に関する事後監視に係る事務を行う。
消費者庁は機能性表示食品制度の施行(平成27年4月1日)後に必要な基
礎資料を得る目的で、検証機関に委託して検証事業を行い、その結果報告書が
消費者庁に提出される。
Aは、消費者庁長官に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(
平成28年法律第51号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)
に基づき、平成27年度の検証事業報告書の開示を請求した。
消費者庁長官は、平成28年11月18日に一部不開示決定、平成29年3
月3日に変更決定をし、本件各不開示箇所に記録された情報が情報公開法5条
6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するなどとして、本件各不開示
箇所等を開示しないものとし、その余を開示した。
Aは国を被告として、本件不開示処分取消、及び、義務付等の訴訟を提起し
た。
3 裁判所は何を認めたか?
東京高裁ではAの取消請求を棄却し、義務付け請求を却下した。その理由
は、本件各不開示箇所を開示すると、➀消費者庁が本件ガイドラインのいかな
る部分を中心に事後監視を行っているか、➁また本件検証機関が機能性関与成
分の分析方法に関する検証において、届け出られた分析方法につき、いかなる
部分にどの程度の不備がある場合にこれを問題視したかや、➂機能性表示食品
の買上調査において、機能性関与成分の含有量につき、表示値からのかい離や
同一製品における数値のばらつきなどを、どの範囲でどのように問題視したか
が推知され、➃事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の
指摘を免れることを容易にさせるおそれがあり、➄また、検証機関による忌た
んのない検討結果の指摘を困難にするおそれもあるので、「本件各不開示箇所
に記録された検証の手法や基準検証結果(データ)、考察内容、問題点等の情
報は情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当する」とい
うものであった。
最高裁は、東京高裁判決を破棄し、差し戻した。その理由は、➀本件ガイド
ラインは、機能性関与成分が定量確認及び定性確認の可能な成分である旨定め
ているが、分析方法の基準や、本件検証機関が本件ガイドラインにどのように
依拠したかを示すような情報もうかがえないので、本件各不開示箇所を開示す
ることにより、消費者庁が本件ガイドラインのいかなる部分を中心に事後監視
を行っているかが推知されるおそれがあるものと直ちにいうことはできないし
、➁また、本件ガイドラインにおいて、機能性表示食品に求められる科学的根
拠の水準は、我が国の消費者の意向、科学的な観点等を十分に踏まえたもので
なければならないなどとされるにとどまっていることも考慮すると、本件検証
事業において用いられた知見が事業者においても通常知り得るような一般的な
ものである可能性は否定し難いので、本件検証機関において、機能性関与成分
の分析方法や機能性表示食品の表示内容につき、どのような場合に問題視した
か等が事業者に推知されたとしても、事業者において消費者庁の事後監視や検
証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあるものと直
ちにいうことはできないし、➂原審は、他に本件各不開示箇所を開示すること
により検証機関による忌たんのない検討結果の指摘を困難にするおそれがある
ものといえる理由を示していないので、「本件各不開示箇所に記録された情報
が情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するとした原
審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」という
ものである。
(裁判官宇賀克也の補足意見)
情報公開法5条6号イの「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若
しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」は、名
目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、「おそれ」も
、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求されるこ
と、「おそれ」の 判断について行政機関の長の裁量は認められず、また、こ
の不開示情報該当性について、被告となる国が立証責任を負うこと、同号柱書
きの「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の「適正」の要件の
判断に際して、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす公益も比較衡
量しなければならないことについては異論がない。
4 コメント
これからは、行政文書の開示を求めて参考にすることも大切だ。