最高裁判所第一小法廷 昭和59(し)115 器物損壊、公務執行妨害、傷害被疑
事件についてした勾留取消請求却下決定に対するものとしてした準抗告棄却決定に対する
特別抗告 昭和59年11月20日決定(原審、 広島地方裁判所呉支部)
1 ポイントは何か?
勾留に対する準抗告と勾留取消請求却下に対する準抗告
2 裁判所の手違い
B簡易裁判所は検察官のAに対する勾留請求を許可した。
AはB簡易裁判所に勾留許可取消請求をし、かつ広島地方裁判所に勾留に対する準抗告申立
をした。
B簡易裁判所は、勾留取消請求を却下した。
Aは広島地方裁判所に勾留取消請求却下に対する準抗告を行った。
広島地方裁判所は、Aの勾留に対する準抗告申立を勾留取消請求却下に対する準抗告と取
り違えて棄却した。
Aは、最高裁判所に特別抗告した。
3 最高裁判所は何を認めたか?
最高裁判所は、広島地方裁判所の準抗告却下決定を事件の取り違えを理由に取消し、Aの
勾留の裁判に対する準抗告を棄却した。
「原決定には、不服申立の対象とされていない裁判に対して判断した違法があり、これを
取り消さなければ著しく正義に反すると認められるので、刑訴法 411条1号を準用して
原決定を取り消す」、「起訴前の勾留の裁判に対する準抗告申立の利益は、起訴後は失わ
れると解するのが相当であるから、本件準抗告は、同法432条、 426条1項により棄
却を免れない。」
4 コメント
事件の取違えは珍しいことなので、刑事訴訟法411条1号の適用ではなく準用とされて
いる。
(参考、第411条 上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であつて
も、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決
で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。)
私の理解不足でなければ、最高裁は、Aの勾留に対する準抗告はそれとして棄却したが、
勾留取消請求却下に対する準抗告は広島地裁でその事件番号のまま放置されて生きている
。これは、その後、広島地裁が改めて棄却決定をしたのだろうか。
また、最高裁の「起訴前の勾留の裁判に対する準抗告申立の利益は、起訴後は失われると
解するのが相当である」との判断は、最高裁判所第三小法廷平成7(し)40勾留取消し請求却
下の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告平成7年4月12日決定
050173_hanrei.pdfの「第1回公判期日前の勾留取消請求却下に対する第1回公判期日後に提
起の準抗告であってもそれだけで不適法とはいえない。」との判断と矛盾しないか。前者
は勾留に対する準抗告で、後者は勾留取消請求却下に対する準抗告だから異なるというこ
となのか。Aが被疑者として受けた起訴前の勾留が適法か否かを確認することは起訴され
て被告人となった後でも確認の利益があるのではないか。それは勾留取消請求が却下され
たことが適法か否かを確認する起訴後の準抗告に確認の利益があることと同じ趣旨になら
ないか。起訴前の勾留による身柄の拘束自体は取り消しようがないとしても、刑事補償等
の被害回復は図られるべきであるが、それはまた別の申立てによるべきと言うことか。