最高裁判所第二小法廷 令和3(医へ)13 医療を受けさせるために入院を
させる旨の決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件
令和3年8月30日決定(原審、東京高等裁判所)
1 ポイントは何か?
アルコール依存症と脳症ないし頭部外傷後遺症。
2 何があったか?
Aが,令和元年9月6日、A方において,同棲相手Bの腹部を包丁で1回突き
刺し,同人に加療約82日間を要する右腎損傷等の傷害を負わせた。
検察官は、横浜地方裁判所にAを傷害罪で起訴した。傷害罪についての有罪判
決確定後、検察官はAを、医療観察事件の対象者として入院措置または通院措
置を求める審判の申立てをした。
3 裁判所は何を認めたか?
地裁では、傷害罪の刑事裁判において懲役3年、5年間執行猶予の判決を下し
、確定した。そして、次の申し立てられた医療観察事件の審判においては、入
院決定を下した。地裁によれば、Aには、犯行当時、反社会的パーソナリティ
、アルコール依存症、代謝性脳症があり、犯行後、代謝性脳症はなくなったが
、頭部外傷後遺症がある。そしてアルコール依存症の治療により、将来同様の
犯罪を繰り返すおそれはなくなる。これに対し、Aが抗告した。
東京高等裁判所は、アルコール依存症はそもそも入院決定による治療の対象で
はなく、治療効果の有無の判定のために入院決定を行うことはできないことか
ら、地裁判決には重大な事実誤認があるとし、地裁の入院決定を取消し、地裁
に差し戻した。これに対し、検察官が再抗告をした。
最高裁判所は、地裁判決に不合理な点はなく、高裁判決はアルコール依存症を
一律に入院決定の対象外とするのは不合理であり、地裁はAのアルコール依存
症が治療可能と認定して入院決定をしており、高裁判決は医療観察法の解釈適
用を誤っているとして、高裁判決を取消し、Aの抗告を棄却した。
4 コメント
私は、刑事裁判の有罪判決と医療観察の入院決定が併存する場合はないと思っ
ていた。また、アルコール依存症は、一律的に、入院措置の対象とはならない
と思っていた。しかし、代謝性脳症による意識障害に影響を与えることから、
入院措置の対象となりうることも新しい発見だった。
法律の制定も、制定された法律の解釈も、民主主義的な議論に支えられて決定
されるものだから、常に議論することを忘れてはならない。
