1 ポイントは何か?
破産管財人の善管注意義務
2 何があったか?
破産管財人Iが、建物所有者Bを貸主とし破産者A社を借主とする建物賃貸借契約を、Bとの合意で解約し、敷金を破産宣告後に生じた債権等に充当した。その時点で財団財産には約6億5000万円の銀行預金が存在した。
これに対し同敷金の内金6000万円に質権を共同で設定していた破産債権者(CないしG銀行)のうちG銀行から債権譲渡を受けたH社から債権回収を委託されたJ社が、IがBとの間で行った敷金充当合意は破産管財人としての善良な管理者の注意義務に違反して質権者に損害を与えたものであるとして、Ⅰに対し損害賠償ないし不当利得返還金(選択的併合)として1389万4752円及び遅延損害金を請求した。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 第1審裁判所 損害賠償金請求の一部を認めた
⑵ 原審裁判所 全部棄却した。
⑶ 最高裁判所 不当利得返還金請求の一部1050万3176円及び遅延損害金を認めた。
破産管財人の行為は正当とは言えないがその任務から考えて善管注意義務に反するとは言えないとして損害賠償責任を否定した。しかし、破産財団が本件充当合意により法律上の原因なく不当に利得したとして返還金請求の一部を認めた。
4 コメント
破産宣告後も営業を継続し、営業譲渡により事業の実質的存続を図る場合があり、本件はそのような事例であったのではないかと思われる。破産管財人が行った建物賃貸借契約の合意解約や敷金充当合意は、結果的に担保権を侵害するだけでなくA社の事業の実質的継続の可能性を摘み取ったことにもなりうる。破産管財人を監督する裁判所が許可して行われたとのことであり、なぜ許可されたのかという問題もある。最高裁は、そのような担保権侵害行為は正当ではないことを認めつつ善管注意義務に違反しているとまでは言えないとして、損害賠償金ではなく不当利得返還金の支払を命じたが、苦渋の判決とも言えよう。
(参考)
破産管財人の善管注意義務、損害賠償義務(破産法85条、旧破産法164条2項,47条4号)破産法 | e-Gov法令検索
本件最高裁判決がIとBの行った敷金充当合意が正当とは言えないとして引用する最高裁昭和46年(オ)第357号 同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁
裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
平成17(受)276 損害賠償請求事件
平成18年12月21日 最高裁判所第一小法廷判決(原判決破棄自判一部棄却)
原審 東京高等裁判所