【不服申立不可の事件:破産宣告に対し抗告を申し立てた事件】

1 ポイントは何か?

 破産宣告に対し抗告を申し立てることはできない。

2 何があったか?

破産宣告に対し抗告を申し立てた。

3 裁判所は何を認めたか?

破産宣告に対し抗告はできないとして棄却した。

「破産裁判所がする破産宣告決定およびその抗告裁判所がする抗告棄却決定が固有の司法権の作用に属する裁判に該当するかどうかについて考察するに、これらの裁判は、いずれもそのような裁判には該当しないものと解するのが相当である。

破産手続は、狭義の民事訴訟手続のように、裁判所が相対立する特定の債権者と債務者との間において当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする手続ではなく、特定の債務者が経済的に破綻したためその全弁済能力をもってしても総債権者に対する債務を完済することができなくなった場合に、その債務者の有する全財産を強制的に管理、換価して総債権者に公平な配分をすることを目的とする手続であるところ、破産裁判所がする破産宣告決定は右に述べたような目的を有する一連の破産手続の開始を宣告する裁判であるにとどまり、また、その抗告裁判所がする抗告棄却決定は右のような破産宣告決定に対する不服の申立を排斥する裁判であるにすぎないのであって、それらは、いずれも、裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判とはいえないからである。

もとより、破産裁判所およびその抗告裁判所は、右のような各決定をする前提として、破産の申立をした債権者およびその他の債権者と債務者との間の債権債務の存否についても判断するものであるけれども、 その裁判によっては右当事者間の債権債務の存否は終局的に確定するものではない。 むしろ、破産裁判所およびその抗告裁判所が右債権債務の存否についてする判断は、破産手続外においてはもちろん、その後の破産手続内においてすら、何ら特別の効力を有するものではなく、債権者が破産手続において破産債権者としての地位を取得し、その地位にもとづく権利を行使するためには、その者が自ら破産の申立をした債権者であると否とを問わず、破産宣告後の所定の期間内にその債権の届出をしたうえ、債権調査期日において破産債権確定の手続を経ることを要し、その際所定の異議のあつた債権については、破産手続外で行なわれる純然たる訴訟事件としての債権確定訴訟をも経由しなければならないのである。

他方、破産宣告決定を受けた債務者も、特定の届出債権の存否を争おうとする場合には、債権調査期日において自らその債権に異議を述べることにより、後日破産手続外で行なわれる純然たる訴訟事件としての別途訴訟においてその債権の存否を争う機会を留保することができるのである。

してみれば、破産裁判所がする破産宣告決定およびその抗告裁判所がする抗告棄却決定はいずれも固有の司法権の作用に属する裁判に該当しないことは明らかであり、したがってまた、これらの裁判は、憲法82条の規定にいう裁判には該当しないものというべきである。

なお、破産宣告決定があると、その決定を受けた債務者はその所有する破産財団所属の全財産の管理処分の権限を喪失するとともに、居住の制限、引致、監守等の一身上の拘束をも受けることになり、また、債権者も右決定を受けた債務者に対し直接的個別的に権利を行使することができず、それを行使するためには、前述したように、その債権の届出をして破産手続に参加することを余儀なくされるのであるが、これは、破産法が破産手続の目的を達成するために定めた効果にすぎないのであって、特定の債権者と債務者との間の実体的権利義務の存否には何ら影響を及ぼすものではない。

さらに、破産宣告決定があると、その決定を受けた債務者は、破産法以外の私法および公法上の諸資格、例えば、後見人、保佐人、公証人、弁護士等になる資格を失しない、その後復権の要件が成就しないかぎり、これらの資格を回復することができなくなるけれども、これは、単に破産法以外の法令が破産宣告決定の存在を要件として定めた別個の効果にすぎず、破産宣告決定自体の効果ではないから、破産法以外の法令上そのような効果が発生するからといって、破産宣告決定およびこれに対する抗告棄却決定自体の性質に影響を及ぼすものではない。

以上によってみれば、本件破産宣告決定および原決定は、それらが所論のように口頭弁論を経ないでなされたものであるとしても、何ら憲法82条に違反するものではないというべきであり、その違憲をいう論旨は採用することができない。したがってまた、その違憲を前提として右各決定が憲法32条および76条3項に違反するという論旨も理由がない。」

4 コメント

  破産手続では、破産者の更生と債権者集会の機能の向上が次の課題だ。

判例

昭和41(ク)402  破産宣告決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告

昭和45年6月24日  最高裁判所大法廷  決定  棄却