【時効・除斥期間:殺人20年以上経過後に相続人が加害者に対し損害賠償請求をした事件】

1 ポイントは何か?

  不法行為の消滅時効と除斥期間

  不法行為から20年が経過したことによって,民法724条後段の除斥期間の規定に基づき損害賠償請求権が消滅するか否か

2 何があったか?

昭和53年8月14日EがAを殺害し自宅の床下に埋めた。

Aの父Bは昭和57年に死亡しAの母C及び弟Dらが相続した。

Eは本件殺害行為 から約26年後の平成16年8月21日に,警察署に自首した。

C及びDらは,平成17年4月11日,Aに対して,不法行為に基づく損害賠償を請求した。

Cは平成19年に死亡しDらが相続した。

3 裁判所は何を認めたか?

Dら勝訴。

「被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡 の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に 基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」

  なお、裁判官田原睦夫の意見は、「民法724条後段の規定は,時効と解すべきであって,本件においては民法160条が直接適用される結果,被上告人らの請求は認容されるべきものと考える」とする。

4 コメント

  除斥期間にも特段の事情がある場合には例外を認めようとすることは妥当な解釈であると思います。田原意見は、除斥期間の効力に例外は認めない代わりに民法724条後段の規定は,除斥期間ではなく時効だとされる。しかし、短期時効と長期時効が併存する意味があるのか、また別の問題が生じるかもしれません。

(要約した判例)

平成20(受)804  損害賠償請求事件

平成21年4月28日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

民集 第63巻4号853頁

裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan

037556_hanrei.pdf (courts.go.jp)

(参考判例、条文)

除斥期間(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)

民法160条の相続人未確定の中は時効が完成しないとする規定の趣旨(最高裁昭和35年(オ)第348号同年9月2日第二小法廷判決・民集14巻1 1号2094頁参照)

相続人が被相続人の死亡の事実を知らない場合は,同法915条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないから,相続人は確定しない。

被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない 状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が 確定しないまま除斥期間が経過した場合にも,相続人は一切の権利行使をすることが許されず,相続人が確定しないことの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは,著しく正義・公平の理念に反する。このような場合に相続人を保護する必要があることは,前記の時効の場合と同様であり,その限度で民法724条後段の効果を制限することは,条理にもかなうというべきである(最高裁平成5 年(オ)第708号同10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087 頁参照)

以上

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