1 ポイントは何か?
裁判官に職務違反、怠慢ないし品位を辱める行状があった場合(裁判所法49条)、戒告又は1万円以下の過料の懲戒を受ける(裁判官分限法2条)。本件判決は、地方裁判所裁判官が配偶者の犯罪行為の弁護のために、裁判官の品位を辱めたとして懲戒された事件である。
2 何があったか?
地方裁判所の裁判官が、検事から、配偶者が犯罪の告発を受けているので示談した方がよいのではないかとの連絡を受け、弁護人の紹介も受けたが、配偶者に事情を聴いたところ、否認するので、その主張を要領よく整理して弁護人に提出するなどの手伝いをした。
3 裁判所は何を認めたか?
戒告。
「裁判官も、1人の人間として社会生活、家庭生活を営む者であるから、 その親族、とりわけ配偶者が犯罪の嫌疑を受けた場合に、これを支援、擁護する何らの行為もすることができないというのは、人間としての自然の情からみて厳格にすぎるといわなければならない。」としつつ、「実質的に弁護活動に当たる行為をしたといわなければならず、その結果、裁判官の公正、中立に対する国民の信頼を傷つけ、ひいては裁判所に対する国民の信頼を傷つけたのである。」とした。
しかし、「親族わけても最も身近な配偶者についての行動に関し ては、十分に慎重な検討を行い、妥当な結論を得ることが必要かつ不可欠である。 このことは量刑の決定に当たり人間性のある刑事裁判を行う裁判官を育成していく ためにも重要であると考える。」との福田博裁判官の反対意見、「裁判官が事件の審理を通じて知り得た具体的な情報等を職務外においてみだりに用いることは、厳にこれを差し控えなければならないのはもちろんであるが 、長年にわたる職務行為及びこれによって得た経験の結果裁判官の身についた素養・ 技能を職務外で活用・発揮すること自体は、何らとがめられることではないのであって、両者を混同してはならない。」との金谷利廣裁判官の反対意見がある。
4 コメント
被申立人裁判官が配偶者のために行ったことは主張を要領よく整理する程度のことであり、実質的な弁護活動には当たらないのではないか。
判例
平成13(分)3 裁判官に対する懲戒申立て事件
平成13年3月30日 最高裁判所大法廷