【抵当権事件:抵当権に基づく物上代位権で賃料債権を差し押さえた事件】2  

1 ポイントは何か?

  建物所有者が建物に抵当権を設定して金融機関から金を借りたが、返せなくなった。抵当権者である金融機関は、抵当建物を差押さえて競売に付することもできるが、物上代位権を行使して、建物所有者の建物賃借人に対する賃料債権を差し押さえることもできる。しかし、建物所有者が賃借人からも金を借りていて、その間で賃料と貸金の相殺の合意をした場合、物上代位権による差押えは相殺合意により消滅した賃料には及ばないかが争われ、大阪高裁は及ばない、最高裁は及ぶとした事件である。

2 何があったか?

  建物所有者Aが、平成29年1月、Bに建物を賃貸した。①

Bが、同年9月、Aに990万円を貸し付けた。②

Aが、同年10月26日、Cに対し、極度額4億7400万円の根抵当権を設定し、登記した。③

Bが、同年11月、Dに対し、合計4000万円の債権を取得した。④

Aがその連帯保証人になった。⑤

Aが、平成30年4月30日、Bに10万円を返済し、Bが、同日、Aに対し、残債権4980万円(貸金残金と連帯保証債務の合計金)の弁済期限を平成31年1月25日まで猶予した。⑥

Bが、平成31年1月25日、BのAに対する将来の賃料債務を、AのBに対する残債権に満つる額まで、直ちに支払うことを約束した。⑦

AとBが、同日、AのBに対する賃料債権4980万円とBのAに対する残債権4980万円とを対等額で相殺することを合意した。⑧

Cが、令和1年8月5日、抵当権に基づく物上代位権により、AのBに対する賃料を4000万円分差し押さえた。⑨

Bは、Cに対し、相殺合意分の賃料の支払を拒否し1210万円のみ支払った。⑩

          

3 裁判所は何を認めたか?

  原々審地方裁判訴及び原審大阪高等裁判所は、物上代位権に基づく差押え前の相殺合意は有効と判断しB勝訴としたが、最高裁判所は、抵当権設定登記がある以上、その後の相殺合意によって抵当権者の物上代位権に対抗することはできないとして原判決破棄、原原審判決を取り消し、2790万円の支払を命じた。

  最高裁判所の本判決は、最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁を引用する。

4 コメント

  抵当権に基づく物上代位請求権と相殺はどちらが優先するか、抵当権の登記と物上代位権による差押え、他の貸金契約の締結と賃料相殺の前後関係により、いろいろなバリエーションがありうるのではないか。常に抵当権設定登記の公示作用が優先するかは、よく調べてみる必要がある。本件は、賃料相殺後も賃貸借契約が継続している特異なケースである。B がAに対する賃料の支払期限の利益を放棄しているが、これはCも援用できるのだろうか。そうであれば、CはBにその一括支払いを求めることができる。Bは、Cに賃料相殺の効果を対抗できないだけで、Aとの関係では相殺合意は有効であるということになれば、改めてAにもⅮにも債権を行使することはできなくなる。

判例

令和3(受)1620  取立金請求事件
令和5年11月27日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄自判

原審 大阪高等裁判所

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