【刑事事件:女性便所内の盗撮事件(埼玉県)】

最高裁判所第一小法廷  平成30(あ)845  建造物侵入,埼玉県迷惑行為防止
条例違反被告事件 令和2年10月1日判決(破棄差戻)  原審東京高等裁判所
判決


1 ポイントは何か?


手段と目的の関係にある犯罪の刑の選択幅


2 何があったか?


被告人Yは、共犯者と共謀して、女子トイレに共犯者が盗撮カメラを仕掛け、
女性が知らずにトイレに入って用を足している写真を撮影した。
検察官は、住居侵入罪(法定刑3年以下の懲役または10万円以下の罰金)及
び埼玉県迷惑防止条例(法定刑6月以下の懲役または50万円以下の罰金)の
牽連犯(刑法54条1項後段)に該当するとして起訴した。


3 裁判は何を認めたか?


第1審及び第2審東京高裁は、重い住居侵入罪の刑を選択し、3年以下の懲役
または10万円以下の罰金の範囲内で、罰金刑は相当でないとして懲役刑を選
択し、懲役2月、執行猶予3年の判決を下した。
これに対し、弁護人が控訴し、罰金刑は50万円以下の方が選択されるから、
罰金刑が相当との判断もありうると主張した。
最高裁判所は、弁護人の主張を入れて、東京高裁の判決を破棄し差し戻した。
最高裁判所は、東京高裁が引用した最高裁昭和22年(れ)第222号昭和
23年4月8日判決は、牽連犯の両罪の法定刑に各選択的罰金刑がる場合の罰
金刑の比較についてまでは言及していないとして、名古屋高裁金沢支部平成
25年(う)第65号号同26年3月18日判決が、住居侵入罪と暴行罪の牽
連犯の場合に、犯情は住居侵入罪が重いとしても、両方に罰金刑があり罰金刑
については、多額が重い暴行罪の法定罰金刑30万円以下の刑によるべきであ
るとした判例によるべきであると認めた。


4 コメント


牽連犯は、手段目的の関係にある犯罪で、両者の刑を比較して重い方の刑を科
するが、懲役刑と罰金刑のそれぞれを比較して重い方を科することができると
することで、懲役刑で処断するか、罰金刑で処断するかの選択の幅が広がった
のとは望ましい結論である。
その論法を更に進めると、一方が懲役刑だけで、他方は禁固刑だけであるとか
、一方は懲役刑と罰金刑が選択可能であるのに他方は懲役刑だけであるという
場合に、刑選択の幅を広げる方法がないものかということを議論することはで
きないだろうか。
なお、その東京高裁での再審理の結果がどうなったかは明らかではない。例え
ば罰金30万円というような判決になった可能性もある。