【労働: 看護師が緊急出動のためのスタンバイの時間の割増賃金を請求した事件】

残業代等未払賃金請求事件

横浜地裁令和3年2月18日判決

(労働判例1270号32頁)

1 ポイントは何か?

⑴ 労働時間とは。

⑵ 始業時刻と終業時刻。

⑶ 休憩時間。

⑷ 特別手当。

⑸ 管理者手当。

⑹ 管理者の割増賃金。

⑺ 休日振替。

⑻ 消滅時効。

⑼ 未払割増賃金の計算方法。

⑽ 付加金。

2 何があったか?

看護師Xは、居宅介護サービス訪問看護などを目的とする株式会社Yと、昭和28年に雇用契約を締結し、常勤の管理者・看護師として勤務していた。Xは、緊急看護対応業務にも従事した。Xは、平成30年12月18日、Yに対し、平成28年9月1日から平成30年11月30日までの未払割増賃金を請求した。そして、同年末に退職した。Xは、平成31年3月27日、本件訴訟を提起した。

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ Xが、携帯電話を所持しての緊急看護対応業務は、現実に、駆け付けて看護業務に従事した以外の待機時間も、Yの指揮命令下に置かれており、労働からの解放が保障されていたとは言えないので、労働基準法上の労働時間に当たるとされた。

⑵ 労働時間の始業時刻と終業時刻は、雇用契約の定めによるが、それと異なる時刻での始業や終業であったことを主張する側に、その時間帯に、労働者が労務を提供していた、あるいは、していなかったという、具体的、的確な証拠があることが必要となる。

⑶ 休憩時間についても同様である。

⑷ 本件では、裁判所が、割増賃金を認めたので、それが認められない場合に、待機特別手当を請求できるかの判断をする必要はなくなった。

⑸ Xは、管理者という肩書はあっても、労働基準法41条2号の管理監督者には当たらないとして、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日等の規定が適用された。

⑹ Xは、管理者手当を受けていたが、割増賃金の趣旨ではないとされた。

⑺ 事後的に代休を与えていたとしても、予め適法な休日振替が行われていなければ、休日労働をさせたことになる。

⑻ 令和2年改正前の労働基準法115条により、未払割増賃金に、2年の消滅時効が適用された。なお、同改正後の消滅時効は、賃金が5年、災害補償その他の請求権は2年である。

⑼ 未払割増賃金は、単価と時間を計算して算定する。本件では、元金990万7484円となった。

これに対する遅延損害金は、退職日までは商事法定利率年6%(令和2年4月1日以降は、改正後の民法と統一され、年3%となった。)、退職の翌日からは賃金支払確保法6条1項及び同法施行令1条所定の年14.6%を支払済まで。

⑽ Yは、同額の付加金の支払義務も免れないものとされた。

これに対する遅延損害金は、判決確定日の翌日から支払済まで、民法所定の年3%。

4 コメント

給与計算には、厳格さが必要です。

社会保険労務士に相談されることもよいと思います。

雇用契約に基づく労働とは、使用者の指揮命令下に労務を提供することで、いつでも駆け付けて労務を提供できるような態勢での待機時間も、労働基準法上の労務の提供と認められ、これに対する賃金が発生し、正規の時間外であれば、割増賃金も発生します。

管理者という肩書であっても、それにふさわしい待遇が与えられていなければ、賃金計算においては、普通の労働者と同じです。

付加金や遅延損害金及び消滅時効期間のことも、考えておかなければなりません。

5 社会保険労務士からいただいたご意見

川西市の社会保険労務士渡辺博己先生から、次のような情報をいただきましたので、掲載いたします。

「労働時間については、実務的には、平成29.1.30厚労省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が参照されることになると思います。

本ガイドラインによれば、判決(1)の判断は、同ガイドラインの3.イの

「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、
労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)」

に沿うもので、「労働時間」にあたることは疑いないところかと思います。」

 渡辺先生、ありがとうございました。

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