1 ポイントは何か?
刑事裁判には「疑わしきは罰せず」の原則がある。本件は、覚せい剤使用で起訴された被告人Pが無罪となった事件である。警察官が、Pに対する旅券法違反による逮捕状と捜索差押令状を取得し、Pの自動車内を捜索したところ、同車内から覚せい剤様のパケが発見され、予試験で陽性が出たので、Pを覚せい剤所持で現行犯逮捕し、旅券法違反で通常逮捕した。鑑定人がPの尿を鑑定したところ陽性が出たので、検察官は、Pを、覚せい剤を使用した罪で起訴した。弁護人は、違法な別件逮捕であり、覚せい剤の押収も尿鑑定も違法取集証拠に当たると主張し、Pは他人が注射した覚せい剤の注射器を洗浄したペットボトルの水を飲んだと弁解した。裁判所は、違法収集証拠はないとしたが、Pの弁解が全く信用できないとは言えないとして無罪とした。
2 何があったか?
警察官は、令和2年1月7日、Pに対する旅券法違反による逮捕状と捜索差押令状を取得し、翌8日、Pが運転する自動車内を捜索したところ、同車内から覚せい剤様の物が発見され、予試験で陽性が出たので、Pを覚せい剤所持で現行犯逮捕し、旅券法違反で通常逮捕した。Pは、当初、覚せい剤の使用を認めており、鑑定人がPの任意提出した尿を鑑定したところ陽性が出たので、検察官は、Pを覚せい剤使用の罪で起訴した。
弁護人は、覚せい剤の押収も尿鑑定も違法取集証拠に当たると主張し、Pは、他人が使用した覚せい剤の注射器を洗浄したペットボトルの水を誤って飲んだと供述を変えていた。
3 裁判所は何を認めたか?
裁判所はPに無罪判決を下した。
その理由として、尿鑑定など違法収集証拠とは言えないが、覚せい剤使用の故意が認められないとした。
違法収集証拠の転移ついては、Pの旅券法違反は相応に重い罪であり、その逮捕状と捜索差押令状が、もっぱら覚せい捜査の目的で使用されたとは言えないこと、Pの尿提出は任意と言えること等から、覚せい剤の押収も尿検査も違法取集証拠に当たるとは言えない。
しかし、覚せい剤使用の故意の有無については、尿から覚せい剤が検出された場合は、特別の事情がなければ故意に使用したと認められるものの、Pが逮捕された際に車から押収されずPの経営するB社のガレージの冷蔵庫から発見されたペットボトルの飲み口の付着物のDNAがPのものと一致し、中身の水に混ざっていた血のDNAが女性のものであったことや、Pの尿中の覚せい剤が体内で分解されずメタンフェタミンのまま排出されたものと、肝臓で代謝されてアンフェタミンに変化したものの比率の時間の経過による変化などを、研究データなどと比較検討し、個人差もあるので、Pの弁解が全くの虚偽とは言えないとした。
4 コメント
警察官が逮捕状をとるのは簡単ではないだろう。裁判官が逮捕状を発するには、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときでなければならず、逮捕状には被疑事実の要旨等を記載しなければならないからである(刑事訴訟法119条、200条)。警察官は、車でPが飲んだペットボトルを、ずれ尿検査をすることを考えて押収しておかなかったことは残念だったと思っているだろう。
判例
令和2特(わ)327 覚せい剤取締法違反
令和5年10月3日 東京地方裁判所
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