1 ポイントは何か?
権利又は法律上保護されるべき利益(民法709条)民法 | e-Gov法令検索
民事訴訟法248条(損害額の認定についての特例)
2 なにがあったか?
建売会社Aと建築請負会社Bの建築請負契約の締結により、Aが所有する敷地α上にマンション建物βを建築することになったが、Aが請負代金のほとんどを支払うことができなかったために、ほぼ完成したβはBが所有権を有した可能性が高かった。Bは、Aとの根抵当権設定契約によりαに根抵当権を設定した。BはAを破産者とする破産申立をし、破産管財人Cとの売買契約によりαを取得した。そして、βを敷地権付で分譲した。
しかし、その途中で、BがAの破産を申立てる前に、AがDとの売買契約によりαをDに売却したため、破産申立後にCが否認権を行使してαを取り戻し、CとBとの売買契約によりCからBにαを売却するまでに2年を要し、その間、Bはβの敷地権付分譲ができず、βが値下がりした。
BはDに対してその間にかかったβの余分な管理費用と値下がり分を損害として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 原審 大阪高等裁判所
B一部勝訴。
DがBに対し不法行為に基づく損害賠償金1億円及び遅延損害金を付加して支払うよう命じた。
Bがβを敷地権付で売却する期待権を主観的な期待に過ぎないものではなく、権利又は法律上保護されるべき利益として認めた。
Dの行為は無意味でただBの利益ないし権利を害するだけの不法行為と認定した。
Dが負担した余分なβの管理費用と値下がり分を合計した損害が1億円を下回らないと認定した。同認定にあたり、裁判官の裁量に基づく損害額の認定として民事訴訟法248条が適用された。
⑵ 最高裁判所
B敗訴
原審大阪高等裁判所の判決を破棄し、BのDに対する請求を棄却した。
BがAの破産を申立てる前のBがβを敷地権付で売却する期待は主観的期待に過ぎず、権利又は法律上保護されるべき利益とまでは言えない。
2人の裁判官の反対意見がある。
岡正晶裁判官は、①Bがβの所有権を取得していたか、②AとDの共同不法行為が成立するか、③相当因果関係のある損害、④法248条を適用すべきか等について審理を尽くさせるために破棄差戻しの判決をするべきとする。
堺徹裁判官は、①権利又は法律上保護されるべき利益、②Dの行為の悪質性、③違法性、④損害額等について検討し、原審大阪高等裁判所の案結を支持し、上告棄却すべきとする。
4 コメント
最高裁判所多数意見の指摘の通り、Bの敷地権付マンション売却期待は権利性が弱いけれども、A,Dのやり方は褒められることではない。Bは、2年間遅れたものの、Cの否認権行使に助けられて敷地権付マンション販売を実行できた。A,Dの妨害と最高裁の判決に阻まれて十分な債権回収は出来なかったものの、破産手続きを活用した債権回収方法として発想が面白い。さらに研究されるべき方法であろう。
判例
令和3(受)2001 損害賠償請求事件
令和5年10月23日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所