【生活保護事件:誤支給された生活保護費の返還決定の取消しを求めた事件】

東京地方裁判所 平成27(行ウ)625  生活保護返還金決定処分等取消請求事
件 平成29年2月1日判決


1 ポイントは何か?


誤支給生活保護費の返還請求に応じる必要があるか。


2 何があったか?


Aは生活保護を受給していたが、東京都の福祉事務所の誤支給により平成
25年8月20日時点で合計591,300円の過支給が発生していた。同所
長は、翌21日、同額の徴収決定をし、翌月以降の生活保護費月額を正規の額
に訂正した。Aは、徴収決定の取消しを求めて、都知事への審査請求、そして
厚労大臣への再審査請求を経て、東京地方裁判所へ本件訴えを提起した。


3 裁判所は何を認めたか?


東京地方裁判所は、としてAの請求を認めた。
生活保護法63条に該当する被保護者について、資産収入状況、保護費の使
用状況、生活実態、地域の実情等の諸事情に照らし、返還金の返還をさせない
ことが相当であると保護の実施機関が判断する場合には、当該被保護者に返還
金の返還をさせないことができるものと解される反面、返還金額の決定が、事
実の基礎、事実に対する評価の合理性など判断の過程において考慮すべき事情
を考慮しないこと等により法の目的や社会通念に照らして著しく妥当性を欠く
と認められる場合には、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして
違法となると解するのが相当である。
福祉事務所長の決定は、福祉事務所側の過誤による損害を一方的にAに押し
付けるものであり、損害の公平な分担についての検討もなく、社会通念上妥当
性を欠き、裁量権の逸脱ないし濫用がある。


4 コメント


本判決で示された誤支給生活保護費の返還基準は総合的具体的であり重視す
べき。将来の生活保護費から返還しなければならない決定は避けるべきである