【労働災害:村の職員が、うつ病になった事例】

公務外災害認定処分取消請求事件

高知地裁平成27年11月27日判決

(判例時報2292号100頁)

1 ポイントは何か?

  • 公務員の労働災害を、公務災害という。
  • 公務災害が起きないための注意とは。
  • 公務災害と認定されるための要件。
  • 公務外災害と認定された場合の方法。

2 何があったか?

高知県A郡B村の職員Xが、うつ病を発症し(以下、「本件疾病」と言う。)、地方公務員災害補償基金(以下、「Y」という。)高知県支部長(以下、「YZ支部長」という。)に対し、公務災害の認定を申請した。YZ支部長は、公務外と認定する処分(以下、「本件処分」と言う。)をした。

Xは、Y高知県支部審査会(以下、「YZ審」という。)に対し、本件処分の取消を求めて審査請求をした。

YZ審は、Xの審査請求を棄却する裁決をした。

Xは、Y審査会(以下、「Y審」という。)に対し、再審査請求をした。

Y審は、Xの再審査請求を棄却する裁決をした。

Xは、地裁に対し、Yを被告、YZ支部長を処分者として、本件処分の取消を求める訴えを提起した。

Xは、平成17年4月以降、B村で、Xの担当する業務が増加し、加重かつ長時間の時間外勤務を行っており、Xの勤務場所の本庁舎から公園事務所への変更もあり、Xの負担が増加したにもかかわらず、Xの上司のサポートがなく、同年11月頃、本件疾病が発症したと主張した。

Yは、Xの本件疾病の発症時期は、平成17年4月頃であり、それ以前の6か月間の間には、B村で、Xの担当する業務には、強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象はなかったこと、Xの時間外労働の時間数から、振替休暇日の時間数を控除すべきで、そうすると、それほど過重な残業時間数とは言えないこと、Xの勤務場所の、本庁舎から公園事務所への変更は、Xに強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象とはいえないこと、上司のサポートもあったこと、むしろXの真面目、几帳面、断れない性格といった、うつ病を発症しやすい性格・気質に加え、Xが頸部の疾病を抱えていることが、本件疾病に関与していること等、列挙し反論した。

3 裁判所は何を認めたか?

裁判所は、Xの請求を認容し、本件処分を取消した。

裁判所は、Xの平成17年4月から同年11月28日までの時間外勤務の時間数から、振替休暇日の時間数を控除した、合計時間数を306時間33分と認定した。Xの上司である係長の同じ期間内の時間外勤務の時間数が、同様の計算で、合計49時間であったことから、上司のXに対するサポートがほとんどなかったことを認めた。

Xの本件疾病の発症時期は、平成17年6月から7月頃であると認定した。

そして、Xが、いわば孤立した状態の中で、担当した個々の業務が、それぞれだけでは強度の精神的負荷を与える事象を伴う業務とは言えなくても、複数の業務を総合的に検討して、強度の精神的負荷を与える事象を伴う業務に従事していたことを認め、それら業務と本件の発症との間に、相当因果関係があると認定した。

Xには、同様の負荷を与えるような他の事象がなく、精神疾患の既往歴も、性格的な偏りもないので、相当因果関係があることを否定することはできないとした。

4 本件で用いられる法律用語について

 ⑴ 処分

   行政作用のひとつであり、行政庁が行う公権力の行使に当たる行為である。

 ⑵ 相当因果関係

   常識的に考えて、重要な原因となっていること。公務災害と認められるためには、公務と疾病との間には、条件関係が認められるだけでなく、相当因果関係が必要である。強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を伴う業務に従事したために生じた精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病が生じた場合など。

5 コメント

この裁判例を読んで、第1に考えなければならないことは、どうすれば、労働災害の被災者とならないで済むかということである。強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を伴う業務が、生命・身体に危険を及ぼすときは、業務命令が相当ではないとして断ることもできる。また、やむを得ず、そのような業務に服務したときは、いかにして、強度の精神的又は肉体的負荷を和らげるかを考えなければならない。もっとも必要なことは、それに見合った休息をとることであり、残業に対する振替休日など、そのための休息を要求することもできる。昇給、賞与の増額なども要求することができるだろう。

上司は、部下が、心身ともに健康に公務に従事できるように、頑張らなければならない。

労災の被災者が、処分庁の処分に不服がある場合、本件のように、まず基金の支部審査会に処分取消請求をするか、直ちに裁判所に処分取消請求訴訟を提起するか。最高裁のHPの裁判例検索で検索して調べると、後者の方が多いように思われる。

労災の認定基準には、基金の内部基準がある。基金は、それによって、迅速な行政処分を下すことができる。

しかし、被災者が、その処分に納得できないときは、裁判を受ける権利がある。

そして、裁判所は、法律には拘束されるが、基金の内部基準には、必ずしも、拘束されるわけではない。

では、この両基準は、対立するかというと、そうでもない。本件裁判例においても、裁判所は、地方公務員災害補償法及び同法施行規則の趣旨についての、裁判所の解釈を打ち出しつつ、基金の内部基準をも柔軟に解釈して、法律の精神に沿った運用を求めたと言える。つまり、裁判所は、基金に対しても、感得的な役割を果たすことになる。

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