【労働問題:消防署員が部下に対するパワハラ等で懲戒免職処分や戒告処分を受けた事例】

1 ポイントは何か?

 ⑴ 消防職員の日ごろの厳しい消火活動訓練

⑵ 指導とパワハラの区別

⑶ 懲戒処分の基準と処分者の裁量権の範囲

⑸ 懲戒免職処分の取消だけでは回復できない精神的苦痛

2 何があったか?

⑴ 消防職員の日ごろの消火活動訓練は、防火服や呼吸具の着装、ホース、梯子、ロープ等の取扱い及び救助活動その他の基礎訓練、ロープを用いた登攀訓練、水平に展張したロープを渡る訓練など、多様かつ厳しい。

⑵ その指導は当然気合の入ったものにならざるを得ない。しかし、いじめ、侮辱、暴言等があってはならない。

⑶ Aは、I市消防本部の係長であるが、同消防本部消防長により、職務懈怠、部下に対するしごき、いじめ、暴言、侮辱、執拗な非難、強要、無視など22項目の非違行為を根拠として、懲戒処分として懲戒免職処分を受けた。

Aは、I市に対し、その懲戒処分の取消と慰謝料300万円の支払いを求めた。

⑷ Bは、I市消防本部の係長であるが、同消防本部消防長により、3項目の非違行為を根拠として、懲戒処分として戒告処分を受けた。

Bは、その懲戒処分の取消を求めた。

3 裁判所は何を認めたか。

⑴ 裁判所は、Aについては、処分者が懲戒免職処分の根拠とした22項目の内15項目について非違行為を認定したが、処分者がAを懲戒免職処分に処したのは処分の裁量権を逸脱していると判断し、Aの取消請求と慰謝料請求を一部認容し、Aの懲戒免職処分を取消し、かつ、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料100万円の払いを命じた。

⑵ 裁判所は、Bについては戒告訴分の根拠とされた3項目の内1項目について非違行為を認定し、処分者がBを戒告処分に処したのは処分の裁量権を逸脱していないと判断し、Bの取消請求を棄却した。

4 コメント

消防士の訓練は、消防隊や救助を要する人々の生死に直結するものですから、気合を入れて厳しく行われると思います。だから、訓練といえどもヒートアップして、冷静さを失うこともあるでしょう。そこへ、日ごろの好悪や対立の感情が入ってしまうこともあるかもしれません。それが、パワハラやセクハラになることもあり得ます。切れやすくなって、知らないうちに相手に脅威を与えているかもしれません。気をつけなければなりません。

消防以外でも、厳しい訓練が必要な職種であれば、同じようなことが起こりえます。

以上

①懲戒免職処分取消等請求事件、②懲戒処分取消請求事件

福岡地裁令和4年7月29日判決

(労働判例1279号5頁)

(裁判所HP,裁判例検索)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/396/091396_hanrei.pdf