【労働事件:労働者が退職金の不利益変更に自由な意思で同意したか否かについては慎重な検討を必要とするとされた事件】

1 ポイントは何か?

  労働契約の基準の変更については労働者の自由な意思が守られるように配慮することが必要である。

本件は、A信用組合が経営破綻を回避するために、B信用組合と合併し、A信用組合の管理職や職員も、B信用組合に引き継がれた。そして、同合併にともない元A信用組合の管理職や職員の退職金の基準の不利益変更がされ、元A信用組合の管理職や職員たちも署名した。しかし、それは、労働者の自由な意思に基づいた労働契約の不利益変更であるか否かが問題となった。

また、元A信用組合の職員に適用されていた就業規則を変更していない場合は、それ自体で、就業規則の基準を下回る不利益変更は無効となるが、就業規則の変更があったか否かは明らかではなかった。

また、元A信用組合の職員組合の執行委員長が、職員組合の大会や執行委員会の決議を経ずに労働協約の変更に応じていた。これは、執行委員長の権限に属するかが問題となった。

最高裁判所は、原審の判断には、これらの問題点について審理不尽による法令適用の誤りがあるとして、東京高等裁判所の判決を破棄し、差戻した。  

2 何があったか?

  平成19年6月29日、A信用組合とB信用組合が合併契約を締結した。それは、A信用組合の経営破綻を回避するためであった。

  同年12月20日、A信用組合の20名の管理職が、B信用組合の管理職と同一水準が維持されるとの前提で、退職金規定の不利益変更に応ずる同意書に署名押印した。また、A信用組合の代表理事とA信用組合の職員で構成する職員組合の執行委員長が労働協約の変更を合意した。しかし、同職員組合の大会や執行委員会は開催されなかった。

  同15年1月14日、A信用組合とB信用組合の合併契約が効力を生じた。

  同16年2月16日、B信用組合は他の3信用組合とも合併し、B信用組合は、C信用組合と名称を変更した。そして、管理職や職員の退職金について平成16年基準変更があり、C信用組合が後に定める退職金の新制度に、元A信用組合の管理職や職員らも従うこととなった。元A信用組合の職員らも、その口頭説明を受けて報告書に署名した。

  平成21年4月1日、C信用組合が退職金の新制度を制定し、その結果、元A信用組合の管理職や職員らの退職金は大幅に減額した。

  元A信用組合の管理職や職員らは、C信用組合に対し、A信用組合がB信用組合と合併契約を締結した当時の職員退職金規定に基づいて退職金を請求した。

  C信用組合は、元A信用組合の管理職や職員らは、退職金規定の不利益変更に自由な意思で同意していると主張した。  

 

3 裁判所は何を認めたか?

   東京高等裁判所は、C信用組合の主張を認め、元A信用組合の管理職及び職員らの請求を棄却した。

   しかし、最高裁判所は、これを破棄し、原審に差し戻した。

使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである(最高裁昭和44年(オ)第1073号同48 年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁昭和63年(オ)第 4号平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁等参照)。

就業規則の変更がされていないのであれば、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める合意は無効となるものと解される(労働基準法93条)。

職員組合の規約には、執行委員長は同組合を代表しその業務を統括する権限を有する旨が定められているにすぎない場合、上記規約をもって上記執行委員長に新たな労働協約を締結する権限を付与するものと解することはできないというべきである。

4 コメント

  平成19年に労働基準法が改正されており、同法93条の文言にも変更があるが、意味は変わらない。

判例

平成25(受)2595  退職金請求事件

平成28年2月19日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  東京高等裁判所

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